30年ぶりに誕生した養鶏場
湯河原町の「山恵園」は、冷涼な風が流れる山間部に位置しながら鶏を放し飼いで飼育している、町で唯一の養鶏場です。湯河原町に新しい養鶏場ができたのはなんと30年ぶりかつ、現在でもここだけだそうです。
新しい可能性を求めて
地元に見守られて
勉強を終えたオーナーは実家の農地を再利用できればと考えましたが、段々畑の形状では養鶏に向かず、また平地にするには膨大なコストがかかるため、養鶏用に新しい土地を用意し、手作りでこの養鶏場を作り上げていったそうです。
また、オーナーは東京住まいだったこともあり、それまで近隣の農家さんたちとは特に親しく接していたわけではなかったそうですが、養鶏場をきっかけに近隣の方々と親交を深めて行ったそうです。お話をお伺いしている短い間にも「エサもってきたよ」「端材おいてくからね」と様々な方がオーナーの元を訪れていました。
おいしさの追求
「とにかく餌にはこだわってるから、私より良いもの食べてるよ」と笑うオーナーは、人工的な飼料ではなく、人間と同じ食べ物を鶏たちに与えています。
また、エサの配合ひとつとっても創意工夫を絶やさず、「餌を変えたら14日くらいで卵に反映されるから味を見て、よくなければ餌を数グラム単位で調整したりして、細かく記録していくのよ」と言います。
そこまで手がけては、少し面倒じゃないですか?と聞くと、食い気味に「たのしい!」と答えるオーナーは、この仕事が本当に好きなんだなと感じました。
平飼いを超えた放し飼い
卵を産む鶏はカゴに入れられて管理されるケージ飼いが一般的ですが、山恵園では鶏が自由に動き回れる放し飼いで育てています。
放し飼いは、鶏が自然に近い環境でストレスを感じることなく育つことができるため、アニマルウェルフェア(動物福祉)の観点からも注目されている飼育方法のひとつです。
湯河原町の豊かな自然に囲まれた、太陽がたっぷりと注ぐ広大な敷地を自由に駆け回り、砂遊びをしながら、新鮮な空気の中でストレスなく育っている様子は、生き物本来の姿を改めて感じさせられます。
湯河原で唯一の養鶏場ということだけではなく、管理の難しい放し飼いを実践されていることも特徴のひとつです。
青い卵と、世界一美味しい卵
お伺いした時には「アローカナ」と「ホシノブラック」という種類の鶏を飼育しておられました。
中でもアローカナの卵は「青い卵」としても有名なほど薄い色味ながら、味は力強く濃厚です。
またホシノブラックの卵は、「お出汁の風味を感じる」というオーナーの言葉通り、そのまま食しても味付けをしているかのような味わいでした。
卵の販売を始めてからまだ半年程とのことですが、東京のレストランや湯河原町の高級旅館などから多くの注文があると言います。
現在は350羽ほど飼育されていらっしゃるようですが、世界一美味しい卵を産むと言われる「ネラ」を新たに250羽ほど迎え入れるそうです。
ひよこから育てて、卵を出荷できるようになるのは当分先ということでしたので、オーナーのこだわりが結実するその日を、また楽しみに待ちたいと思います。